歯周病とは？治療の流れと症状、
患者さんの声
歯周病は日本人の成人の成人の約80～90%以上が罹患していると言われる国民病です。しかし、初期段階では自覚症状がほとんどないため、気づいたときには進行してしまっているケースも少なくありません。このページでは、歯周病の基礎知識から治療の流れ、実際の患者さんの体験談まで、詳しくご紹介します。
Chapter 1: 歯周病の基礎知識と進行の怖さ
歯周病は、歯を支える歯茎や骨が細菌感染によって破壊される病気です。単なる「歯茎の病気」ではなく、全身の健康にも影響を及ぼす可能性があることが、近年の研究で明らかになっています。心臓病や糖尿病との関連性も指摘されており、口腔内の健康管理は全身の健康管理にもつながります。
この章では、歯周病がどのような病気なのか、そしてなぜ「静かな病気」と呼ばれるのかを詳しく解説していきます。
歯周病は「静かな病気」
歯周病は「サイレントキラー」とも呼ばれ、初期段階では痛みなどの自覚症状がほとんどありません。
歯を磨いたときに少し出血する程度の症状しかないため、多くの方が「たいしたことない」と放置してしまいます。
しかし、その間にも細菌は着実に歯を支える骨を溶かし続けています。
厚生労働省のe-ヘルスネットによると、歯周病は日本人が歯を失う最大の原因となっています。虫歯よりも多くの歯を失う原因となっています。
気づいたときには歯がぐらぐらと動揺し、抜歯せざるを得ない状態になっていることも珍しくありません。
定期的な歯科検診を受けることで、自覚症状がない段階でも歯周病を早期発見することができます。
早期発見・早期治療が、歯を守る最善の方法なのです。
歯を失う理由
ワースト１ 歯周病
ワースト２ 虫歯
ワースト３ 破折
歯周病の進行ステージ4段階
歯周病は段階的に進行していきます。各ステージの特徴を理解することで、ご自身の状態を把握し、適切な治療を受けることができます。
ステージ1：歯肉炎
歯茎に炎症が起こり、赤く腫れたり、歯磨き時に出血したりします。この段階では歯を支える骨はまだ溶けておらず、適切なブラッシングと歯石除去で完全に治すことができます。自覚症状が少ないため、見過ごされやすい時期です。
ステージ2：軽度歯周病
歯周ポケット（歯と歯茎の間の溝）が3〜5mmまで深くなり、歯槽骨の溶解が始まります。歯茎の腫れや出血が頻繁に起こり、口臭も気になり始める時期です。この段階でも、専門的な治療とセルフケアで進行を止めることができます。
ステージ3：中等度歯周病
歯周ポケットが4〜7mmまで深くなり、歯を支える骨が半分近く溶けてしまいます。歯がぐらつき始め、膿が出ることもあります。硬いものを噛むと痛みを感じたり、口臭が強くなったりします。基本治療に加えて、外科的治療が必要になる場合もあります。
ステージ4：重度歯周病
歯周ポケットが8mm以上になり、歯を支える骨の大部分が失われています。歯の動揺が激しく、膿が常に出て、強い口臭があります。食事にも支障をきたし、抜歯が必要になるリスクが非常に高い状態です。しかし、適切な治療で歯を残せる可能性もあります。
Chapter 2: 歯周病の治療の流れ
歯周病の治療は、患者さんの状態に応じて段階的に進められます。軽度の場合は基本治療だけで改善することも多いですが、進行している場合は外科的な処置が必要になることもあります。
治療の成功には、歯科医師による専門的な処置だけでなく、患者さん自身のセルフケアへの取り組みが非常に重要です。この章では、歯周病治療の具体的な流れと、それぞれの治療法について詳しく解説していきます。
歯周基本治療からスタート
歯周病治療は、まず「歯周基本治療」から始まります。これはすべての歯周病患者さんに共通する基礎的な治療で、歯周病の原因となる細菌や歯石を徹底的に除去することを目的としています。
スケーリング・ルートプレーニング
専用の器具を使って、歯の表面や歯茎の中に付着した歯石や歯垢を丁寧に除去します。スケーリングは歯の表面の歯石除去、ルートプレーニングは歯根の表面を滑らかにする処置です。これにより細菌の再付着を防ぎます。
ブラッシング指導
歯科衛生士が、患者さん一人ひとりの口腔内の状態に合わせた正しいブラッシング方法を指導します。歯ブラシの選び方、持ち方、動かし方、歯間ブラシやデンタルフロスの使い方など、効果的なセルフケアの方法を学びます。
かみ合わせの調整
不適切なかみ合わせは、特定の歯に過度な負担をかけ、歯周病を悪化させる要因となります。必要に応じて、かみ合わせの調整を行い、すべての歯に均等に力がかかるようにします。これにより歯への負担が軽減され、治療効果が高まります。
基本治療の期間は通常2〜3ヶ月程度で、週1回から2週間に1回のペースで通院していただきます。この治療と並行して、ご自宅でのセルフケアを継続していただくことが、治療成功の鍵となります。
進行した場合の外科的治療
基本治療を行っても改善が見られない場合や、中等度以上に進行した歯周病の場合は、外科的な治療が必要になることがあります。外科治療と聞くと不安に感じられるかもしれませんが、現代の歯周外科は麻酔技術も進歩しており、痛みを最小限に抑えた治療が可能です。
フラップ手術
歯肉を切開して歯根を露出させ、深部に付着した歯石や感染した組織を直接見ながら徹底的に除去します。基本治療では届かない深い歯周ポケットの奥底まで清掃できるため、中等度から重度の歯周病に効果的です。手術後は歯肉を縫合し、治癒を待ちます。
歯周組織再生療法
エムドゲインやリグロスなどの再生材料を使用し、失われた歯槽骨や歯周組織の再生を促進する治療法です。エムドゲインは豚の歯胚から抽出されたタンパク質で、リグロスは遺伝子組み換え技術を用いた成長因子製剤です。これらを歯根表面に塗布することで、骨や歯茎の再生を促します。
抜歯と代替治療
残念ながら、歯を支える骨が大きく失われ、歯の保存が困難な場合は抜歯が必要になることもあります。しかし、抜歯後はインプラント、ブリッジ、入れ歯などの方法で失った歯の機能を回復させることができます。早期治療により、抜歯は十分に回避可能です。
適切に行われた歯周外科治療の成功率は非常に高く、多くの患者さんが良好な結果を得ています。術後の定期的なメンテナンスと日々のセルフケアが、長期的な成功の鍵となります。
短期集中治療法：全顎スケーリング（FMS/FMD）
従来の歯周病治療では、口腔内を複数の区画に分けて、数週間から数ヶ月かけて段階的に歯石除去を行っていました。しかし、治療の間に未治療部分から細菌が再び治療済みの部分に感染するリスクがありました。
Full Mouth Scaling（全顎スケーリング）またはFull Mouth Disinfection（全顎消毒）と呼ばれる治療法で、すべての歯のスケーリングとルートプレーニングを一度に行います。
一度に全ての歯を治療することで、未治療部分からの再感染リスクを大幅に減少させることができます。また、通院回数が少なくて済むため、患者さんの時間的・経済的負担も軽減されます。
複数の研究により、FMS/FMDと従来の段階的治療法との間に、治療効果の面で大きな差はないことが確認されています。患者さんの利便性や好みに応じて選択できる治療法です。
この治療法は、忙しくて頻繁に通院できない方や、早く治療を終えたい方に特に適しています。ただし、1回の治療時間が長くなるため、体力的な負担や治療後の腫れなどを考慮して、歯科医師と相談の上で選択することをお勧めします。
Chapter 3: 症状別の治療例と患者さんの声
実際の治療例と患者さんの体験談をご紹介します。歯周病の進行度によって、治療期間や方法は異なりますが、いずれのケースでも患者さんの積極的な協力と継続的な通院が治療成功の鍵となっています。
これからご紹介する3つの症例は、軽度、中等度、重度の歯周病それぞれの治療例です。同じような症状でお悩みの方にとって、治療の参考になれば幸いです。
軽度歯周病の治療例
50代男性・Aさんのケース(保険診療)
Aさんは、歯磨きの際に時々出血があることに気づき、当院を受診されました。検査の結果、軽度の歯周病と診断されました。歯周ポケットは3〜4mm程度で、歯槽骨の溶解はまだ軽微な状態でした。
治療内容：スケーリングによる歯石除去を4回に分けて実施し、同時に正しいブラッシング方法を指導しました。歯間ブラシの使用方法も詳しくお伝えし、日々のセルフケアの重要性を理解していただきました。
治療期間：約4ヶ月間、合計4回の通院で症状が改善。以降も定期的なメンテナンスにて通院されております。
治療後の状態：歯茎の腫れと出血が完全になくなり、健康的なピンク色の歯茎を取り戻すことができました。歯周ポケットも2〜3mmまで改善し、正常な状態に戻りました。
— Aさん（30代女性）
「歯磨きの時の出血が気になって受診しましたが、こんなに早く改善するとは思いませんでした。歯科衛生士さんに教えていただいた磨き方を実践したら、口の中がすっきりして、朝起きた時のネバネバ感もなくなりました。定期検診の大切さを実感しています。」
軽度の段階で治療を開始すれば、歯槽骨の溶解を食い止め、完全に健康な状態に戻すことができます。
定期的な歯科検診で早期発見することが最も重要です。
中等度歯周病の治療例
50代女性・Bさんのケース(保険診療)
Bさんは、歯茎の腫れと出血が続き、口臭も気になるようになったため来院されました。前歯のいくつかがぐらつき始めており、食事の際に痛みを感じることもありました。検査の結果、歯周ポケットは5〜6mmで、中等度の歯周病と診断されました。
01
初期治療（1ヶ月目）
まず全体的な歯石除去とブラッシング指導を行い、口腔内環境の改善を図りました。セルフケアの重要性を理解していただき、毎日のケアに取り組んでいただきました。
02
ルートプレーニング（2ヶ月目）
麻酔下で歯周ポケット内の深部歯石を徹底的に除去し、歯根表面を滑らかに整えました。複数回に分けて丁寧に処置を行いました。
03
再評価と追加治療（3ヶ月目）
治療効果を確認し、一部改善が不十分な部位には追加の処置を実施しました。かみ合わせの調整も行い、歯への負担を軽減しました。
治療期間：約3ヶ月間、合計10回の通院で基本治療を完了しました。
治療後の状態：歯茎の腫れが引き、出血もほとんどなくなりました。歯周ポケットは3〜4mmまで改善し、歯のぐらつきも軽減されました。口臭も気にならなくなり、食事も快適に楽しめるようになりました。
— Bさん（50代男性）
「最初は歯を失うのではないかと不安でいっぱいでしたが、先生と衛生士さんの丁寧な説明と治療のおかげで、歯を残すことができました。歯がぐらつく不安が減り、食事が楽しくなりました。毎日の歯磨きも丁寧にするようになり、3ヶ月に一度のメンテナンスも欠かさず通っています。」
重度歯周病の治療例
60代男性・Cさんのケース
Cさんは、複数の歯がぐらつき噛むことが出来ない、膿が出て強い口臭があるという重度の歯周病の状態で来院されました。「もう歯を全部抜くしかない」と他院で言われたこともあり、大変不安に感じていらっしゃいました。
長期治療の経過
Cさんの治療は、基本治療から始まり、複数回のフラップ手術、歯周組織再生療法、そして残念ながら保存不可能な数本の抜歯も含まれました。
- 1年目：基本治療と複数箇所のフラップ手術・再生療法と追加の外科処置
- 2年目以降：定期的なメンテナンス
治療は決して簡単なものではありませんでしたが、Cさんの粘り強い通院と日々のセルフケアへの取り組みにより、多くの歯を残すことに成功しました。
治療期間：1年弱
主たる歯周基本治療、歯周外科手術は保険診療で、施術しました。
歯周組織再生療法・セラミックの被せ物は自費診療となります。
内訳：エムドゲイン 50,000円
セラミック 100,000円×27本
メンテナンス：約9年間 合計30回の通院
現在はメンテナンスのみとなっております。
治療後の状態：いくつかの歯は失いましたが、大部分の歯を保存することができました。現在も3ヶ月に一度のメンテナンスを継続し、残っている歯の健康を維持しています。口臭もなくなり、食事も問題なく楽しめるようになりました。
9年
メンテナンス継続期間
長期的な治療とメンテナンスで歯を守り続けています
30回
通院回数
定期的な治療とメンテナンスの積み重ね
— Cさん（60代男性）
「他の歯医者さんでは『もう全部抜くしかない』と言われて絶望していましたが、こちらの先生は『できる限り残しましょう』と言ってくださいました。長期の治療は確かに大変でしたが、歯を残せて本当に良かったです。
そして念願のハンバーガーを食べられる喜びは何にも代えがたいものです。諦めずに治療を続けて本当に良かったと感謝しています。」
Chapter 4: 歯周病治療の重要ポイントと予防法
歯周病は「治る病気」です。適切な治療と日々のセルフケア、そして定期的なメンテナンスによって、進行を止め、健康な口腔環境を取り戻すことができます。
この最終章では、歯周病治療で最も重要なポイントと、歯周病を予防するための具体的な方法についてまとめます。すでに歯周病と診断された方も、予防したい方も、ぜひ参考にしてください。
歯周病は治る病気です
歯周病は適切な治療とケアによって、進行を止めることができる病気です。失われた歯槽骨を完全に元通りにすることは難しいですが、炎症を抑え、残っている組織を健康な状態に保つことは十分に可能です。
専門的な治療が必須
歯磨きだけでは歯石は取り除けません。歯科医院での専門的な歯石除去とクリーニングが必要です。定期的なプロフェッショナルケアが、歯周病治療の基盤となります。
セルフケアの徹底
毎日の正しいブラッシングと歯間清掃が最も重要です。歯ブラシだけでなく、歯間ブラシやデンタルフロスを使って、歯と歯の間の汚れもしっかり除去しましょう。
定期検診の継続
3〜4ヶ月に一度の定期検診とメンテナンスが理想的です。症状がなくても定期的にチェックを受けることで、再発を防ぎ、健康な状態を維持できます。
早期発見・早期治療
歯周病は初期段階で発見し、治療を開始すれば、短期間で完治させることができます。少しでも気になる症状があれば、すぐに歯科医院を受診しましょう。
予防のための生活習慣
- 禁煙：喫煙は歯周病の最大のリスク要因です。禁煙することで治療効果も高まります。
- バランスの良い食事：栄養バランスの取れた食事で免疫力を高めましょう。
- ストレス管理：ストレスは免疫力を低下させ、歯周病を悪化させます。
- 十分な睡眠：質の良い睡眠は身体の回復力を高めます。
- 糖尿病の管理：糖尿病と歯周病は相互に影響し合います。
- 定期的な運動：適度な運動で全身の健康を保ちましょう。
最後に
歯周病は決して「年だから仕方ない」病気ではありません。適切な治療と予防により、生涯にわたって自分の歯で食事を楽しむことができます。少しでも気になる症状がある方、定期検診を受けていない方は、ぜひ一度歯科医院を受診してください。
健康な歯と歯茎は、豊かな人生を支える大切な財産です。今日から始める予防と治療で、一生涯健康な口腔環境を維持しましょう。